ふくしおおさか2021年4月号
2/12

「好き」がモチベーションに「とりあえず、やってみなはれ」プライドをもつこと独特の生活文化が根づく街、西成で“おっちゃんたち”とビールづくりに挑んでいる事業所があります。「なぜ西成でビールを?」その答えを探るため、クラフトビールを醸造する工場、ディレイラブリューワークスを訪ねました。そこで出会ったのは、汗をにじませながら一生懸命に働くおっちゃんたちの、どこか誇らしげな姿でした。運営するのは、西成区をホームグランドに高齢者の介護、障がい者の就労支援などの事業を手がける株式会社シクロ。筆者の問いに、代表取役の山やまき﨑ざ昌あきり宣のさんは揺るぎない意思をもって答えました。「西成で暮らす人がアルコールに携わることを、タブー視してはいけない」と。確かに地域の特性上、アルコール依存などの中途障がいがある利用者は多い。しかし、「アルコールが好きという感情は、その人のモチベーションになる」と考えているのです。もちろんアルコール依存症を克服するため、目の前からアルコールをなくすことはとても重要です。しかし、「そこがゴールではない。手の届く場所にアルコールがあっても飲まないなど、自分でコントロールできるところに最終目標がある」と確信しています。きっかけは、利用者から浴びせられた罵詈雑言でした。5年前、山﨑社長は「朝の1杯をお酒からコーヒーに」をコンセプトに、萩之茶屋で就労支援のカフェを開設。しかし、お店の繁盛ぶりが裏目に出て、脱糞などの嫌がらせを受ける始末に。わずか1年で撤退に追い込まれました。その後、ねじの袋詰めや封筒の糊付け作業などを用意したものの、利用者のモチベーションは一気に低下。迷いのなか、決起集会を兼ねて開いた飲み会で「単純作業はおもろない」「わしら酒の専門家や。誰よりも酒のこと知ってるんやから、俺らに酒売らしたらいいねん」と袋叩きにあった山﨑社長。「そこまで言うなら」と半ば売り言葉に買い言葉で酒販免許を取得し、ビールの販売業をはじめました。のルートで手売りし、わずか3日で800本を売りさばいたのです。何度仕入れても2~3日で完売するため、「自社工場でビールをつくろう」と意を決します。平成30年春、ついに醸造所の開設が実現しました。たことは、とにかくやらせてみる。そして、その後の道筋をつけるのが自分の仕事だとも。「10の事業にチャレンジして、数年後に3つ残ったら良し!」と覚悟をにじませます。イドをもつことの大切さを実感。働くことで自信が生まれ、これまでヘルパーに暴言を吐いていた人も「しっかりしていすると、利用者は酒好きならではそんな山﨑社長のモットーは、「とりあえず、やってみなはれ」利用者が「やりたい!」と言い出し山﨑社長は、ここでの就労から、プラる自分をみてほしい」と飲酒習慣が変わってきたのだとか。「働くことは、社会との関係性を再構築すること。収入を得ることで生活保護から脱却したり、保護費を一部返還できた人もいる」と明かします。大好きなビールがモチベーションを高め、経済的な自立によりプライドまで呼び覚ましたのです。この街のおっちゃんに育ててもらった、と笑顔で語る山﨑社長。「小汚い街ではなく、下町としての人情味あふれる街、西成の魅力を発信したい。おっちゃんたちと一緒に、世界に通用するプロダクト(製品)を世に出していきたい」と意気込みを語ります。5月には、第2のビール工場が完成予定。現在の工場は蒸留酒のジンに切り替える計画です。社長とおっちゃんたちの夢は、まだはじまったばかりなのです。2(株)シクロ社長の山﨑昌宣さんコロナ禍で、家庭用のサーバーが人気を博している西成産のクラフトビール第1号は、「西成ライオット(暴動)エール(左)」。毎月新しい銘柄のビールを発売している樽の洗浄を行う馬ばじょうさとる上悟さん「ビールが店先に並んでいると、よっしゃ、自分が作ったものやぞ!とうれしくなる」特集特集西成のビールを西成のビールを世界世界へへ“酒の専門家”たちが挑むプロジェクト“酒の専門家”たちが挑むプロジェクト

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る